防犯灯電気料訴訟 茅ヶ崎市の返還請求を棄却!

市が市民を訴える異例の裁判、茅ヶ崎市の全面的な敗訴

令和4年4月8日 横浜地方裁判所 
「防犯灯電気料金返還請求裁判」

茅ヶ崎市が2つの団地自治会に交付した防犯灯の電気料金を巡り、自治会が電気料金に充てていなかったとして、両自治会に交付した約1900万円の返還を求めた訴訟の判決が横浜地裁であった。

判決の主文は

①原告(市)の請求をいずれも棄却する。

②訴訟費用は原告の負担とする。

と、茅ヶ崎市の請求をバッサリと棄却した判決だった。

茅ヶ崎市の返還請求はいっさい認めず、自治会の勝訴が言い渡された。 

市の請求に証拠なし!

市は二つの団地自治会に対して、防犯灯電気料金を負担付きで贈与したと主張。両自治会が負担を履行しなかったとして贈与契約を解除した。
(負担付贈与とは、何かの「義務」や「負担」と引き換えにお金などを贈与すること。)

そして、市は二つの団地自治会に対して、

①民法の現状回復請求権(553条、545条1項)に基づき、支払い総額1052万と826万と利息の支払いを求めた。
②負担付贈与契約が成立していないのであれば、不当利得に当たると主張して、不当利得返還請求権に基づき上記と同額の支払い、遅延損害金の支払いを求めた。

しかし、裁判の判決では
「市主張の負担内容の申し込みも、これに対する自治会の承諾の意思表示のいずれについても、明示的にも黙示的にも認めるに足りる証拠はないので、市の主張は認められない。」

つまり、市の主張を認めるに足りる証拠はない として、市の請求を全面的に棄却した。

裁判費用 市民は自腹 市はすべて税金

「訴訟費用は原告の負担とする」という判決でも、市が負担するのは裁判の印紙代のみという。
市が市民を訴えるという異例の裁判。
判決までちょうど3年間、弁護士費用や交通費など、市民は自腹になるが、市はすべて税金でまかなうことができる。納得のいかない市民は多いと思う。



横浜地裁前 天気が良く花壇が満開だった 

訴訟はどのような経緯で起きたのか?

平成28年4月、市議会議員2名が鶴が台の定期総会に出席した。
総会では、市から交付された防犯灯負担金は、自治会の一般会計に算入されていることが説明された。
議員2名は市の安全対策課に「防犯灯負担金が電気料金にあてられていない」として情報提供した。

市は「電気料金は団地の全住民からの共益費によりURが支払っており、防犯灯負担金は電気料金にあてられていない事実が判明した」と表明した。

また、「市としては公金を使って支払っている以上、本来の目的以外の使い方であれば、過去にさかのぼってでも是正しなけらばならないと考えており、返還は求めざるを得ない。このことから、協議の中では、市は過去10年間分の返還を求めると繰り返し主張してきた。一方、自治会側は、間違ったことはしていないので返還する必要はないとの主張で、話し合いは平行線の状態が続いていた。このままでは今後も解決が見込めない状況なので、訴訟手続きを進めることとなった」と表明した。

なお、市は平成29年3月、URとの間で、両団地内の防犯灯にかかわる電気料金について協定書を締結し、平成30年度以降は、直接URに対し、防犯灯電気料金に使途を限定した補助を行っている。

(※ だったら市は、最初からなぜそうしなかったんでしょうね〜。) 

平成31年3月28日、市は二つの団地自治会にたいして、防犯灯電気料金名目の負担金が電気料金に支出されていないことは協定書違反だとして、平成19年度〜平成27年度まで、10年分全額(約1900万円)と利息の返還を求めて提訴した。


裁判の争点と裁判所のジャッジ 

協定は、両自治会に、市から交付を受けた負担金を電気料金に充当すべき義務を負わせたものか?(負担付き贈与の成否)

そもそも、市と両自治会の結んだ協定には、「市からの負担金を電気料金に充当すべき義務」があるのか?

この部分が一番の争点だと思います。

(市の主張)

地方自治法232条2に基づき、防犯灯の電気料金に使途を限定した補助金として交付したものであり、防犯灯の電気料金に充当すべき債務の負担の付いた贈与である。

(裁判所の判断)

市は両自治会に対して、負担金を電気料金に充当すべき義務を負わせており、このことを自治会は承諾したと主張している。

しかしながら、
市主張の負担内容の申し込みも、これに対する自治会の承諾の意思表示のいずれについても、明示的にも黙示的にも認めるに足りる証拠はないので、市の主張は認められない。

というのが裁判所の判断です。

市は、両自治会に対して、負担金を電気料金に充当すべき義務を負わせている、
そして、このことを自治会は承諾していると言っているが、市の主張のどちらにも明確な証拠はない。よって市の請求は棄却するという判断です。


その理由として、

①二つの団地の住民は自治会への加入の有無にかかわらず、防犯灯設置の当初から、補助金の交付を受ける前に公団に対して共益費として電気料金を支払っていたこと、

②補助金の交付に際し、住民の公団に対する共益費としての電気料金の支払いが問題視されたことがないこと、

③両自治会への補助金開始の当初から、平成28年に問題視されるまでの約50年間、市から補助金ないし交付金の使途が問題にされたことがなかったこと、

④平成8年と18年に見直しがあったものの、その際にも補助金の使途が確認されたり変更が求められたりしたことがなかったこと、

⑤両団地の住民が公団やURに対して共益費としての電気料金等を支払っていることや、両自治会が補助金や交付金を一般会計に組み入れていることは秘匿できる事項ではないこと、

⑥UR 作成の証明書のとおり、市に対して電気料の支払いは居住者からの共益費により行われていたことが認められる

以上を前提にすれば、市が補助金交付の当初から市主張の債務の負担を両自治会に求め、これに両自治会が応じていたと認めることは困難である。



茅ヶ崎市の防犯灯の管理について

茅ヶ崎市は昭和30年代から市内各地域に防犯灯を設置して、その維持管理を自治会に任せ、補助金を自治会に交付していた。一方、住宅公団の防犯灯は、設置も維持管理も公団が行っていた。

被告となった二つの団地内の防犯灯の電気料金・修繕費は、公団住宅を借りている住民が、公団に「共益費」を支払い、公団は「共益費」から支払っていた。
つまり防犯灯の電気料金・修繕費は実質的に団地の住民が負担していた。

自治会への補助金交付の実情

市は以前から(始期は不明)両自治会に防犯灯の補助金を交付していた。
市の両自治会への補助金の交付方法は、URが公団から賃貸管理業務を継いだあとも変わっていない。
両自治会は、市からの補助金を、自治会の一般会計に算入し、自治会活動の資金として支出してきた。
(なお、市はこれを知ったのは平成28年と主張している)

平成8年 市は補助金事業を見直し

今後は防犯灯は市の所有物とし、維持管理も市が直接行い、電気料金は電力会社に市が直接支払うので補助金の交付は行わなくなった。
ただし、マンションと団地が所有する防犯灯で、市への移管が不都合なものは、従前からの補助金制度で対応するとした。

平成17年 市の補助金の見直し

防犯灯電気料の補助金交付は、
「補助金でなく、市が負担すべき負担金として整理し、支出する根拠として覚書き、協定書を整備する必要がある」とした。

これまでは、補助金について市と両自治会のあいだで取り交わした文書がなかったことから、合意文書が作成されることになった。

そして、平成18年4月、市は両自治会と防犯灯維持管理に係わる協定を結んだ。
(市は、自治会が維持管理する防犯灯の電気料金について、算定基準にもとづき両自治会に支払う。ただし、市又は自治会のいずれかが解除の意思表示をしない限り、同一条件で更新する。)

平成18年度から、市は毎年半期ごとに「平成**年度 防犯灯維持管理負担金の請求について」という文書を交付した。
文書には「平成**年度の防犯灯維持管理負担金(電気料)について、記入例によりご記入のうえ、ご提出いただきますようお願いします。対象防犯灯数については、協定書のとおりです。」と記載されていた。

また提出書類として、
①請求書(電気料)
②*月分電気料 領収書の写し
③変更届け(自治会長が変更になった場合のみ)
③平成**年 防犯灯維持管理電気料報告書 が要求されていた。

両自治会は、防犯灯を維持管理しているUR作成による「団地に係わる防犯灯電気料の支払いについて(証明)」という文書を添付して、市に負担金の支払い請求をしていた。

この文書には、
①防犯灯の本数
②電気料金支払額 
が明記され、さらに「この電気料は居住者からの共益費により支払っております」と明記されていた。

市は、両自治会の銀行口座に負担金を送金した。

市は自動更新された各協定にもとづいて、平成18年〜平成28年まで負担金を支払った。

両自治会が維持管理する防犯灯の電気料金は、URが電力会社に支払っていた。

市からの負担金は、両自治会の一般会計に算入され、自治会の活動資金となっていた。


4/25 市は控訴しないと発表 

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